漂流者にあらず
水晶体の空から
半世紀
北風と太陽
氷麗
全曲作詞・作曲・編曲
YOSSEY
2019年春発表
【漂流者にあらず】
鉄の街、北九州。工場の効果音から始まります。この歌の主人公は反抗してばかりのティーンエイジャーが音楽の魅力に取り憑かれ、一般的な人生を歩まず独自の道を歩みます。
そして人生の後半になってもその歩みを止めずに抗い続け、しまいには仲の良かった友達にも愛想をつかれてしまうという頑固ジジイの歌とでも言うべきクロニクルな作品。
敬愛するミュージシャンの先輩『圓三』さんの曲に「漂流者」という楽曲が有りますが、アンサーソングという訳では有りません。彼は徹底的にご自身の人生を歌っていますが、僕の場合は【創作物語】です。曲によっては所々自分と重なる部分も有りますが、基本的に曲の中に最低でも二つの意味合いがあり、時にはトリプルミーニングも有ります。
インスパイアされたのは実はムーンリバーの一節
Two drifters, off to see the world
There's such a lot of world to see
このフレーズが一時期頭から離れなかった。「ええい!漂流者じゃないわい!」ってのが作曲の動機にあった。だから三拍子になったのかな。あと実は後半はクイーンの影響もある。ドラマチックにギターを重ねたかった。ベーシックトラックが出来てギターをオーバーダビングする作業は本当に好きで熱中するんだなあ。
【水晶体の空から】
変ちくりんなタイトルでしょ?全国ライブツアーを回って他の人の楽曲を聴く事もよくあるけど、大抵は「私はこう思っている」「僕はこう感じている」『君よ頑張れ」という、シンガー本人の目線のウタばかりだ。
僕は全く違う目線から歌う。徹底的に歌を発するモノに憑依してみる。すると見えてくるのは人間の醜さだ。あーあ、という感情だ。もちろんこれは自分に対してもだ。1998年にThere is...という楽曲をリリースしてラジオのエンディングテーマとしても長年使って頂いたが、果たして真意がどれだけ伝わったか…英詞だったから仕方ないか、という思いもある。今回のアルバムは全曲日本語、さてどうか。
あと、この曲を作るにあたり影響を受けたのは何とレミーだ。モーターヘッドのレミーキルミスターだ!映画極悪レミーの中でリッケンバッカーを弾いてみせるシーンがある。アンプのツマミをグイッと上げて…
「他のヤツと全然違うだろ」っと言うシーン。あれが自分の導火線に火を付けた。
【半世紀】
実はこの曲は出来た当初そんなに力は入って無かった。こんな感じの曲が有っても良いな…程度だった。
それで2018年の夏からアレンジも無く、ギターはただコードを鳴らしてライブで披露したのだけれど各地で自分でも驚くほどの反応があり、見直したっていうか…確かにこんなテーマをこんな風に結ぶ楽曲は他にはちょっと無いな、と。
特に尊敬する北九州のDOBB氏の「世界を変える楽曲だ」と言ってくれた熱烈なラブコールには気合いが入った。
そこで、ピアノの音色がどうしても欲しくなり埼玉や東京で活躍するナックルヘッドのとしえちゃんにお願いした。クラシカルなプレイが得意な事を知っていたので、譜面も書かずお任せでセッションしてみたら…彼女は気を使ってかロックなプレイをしたんだ。これには即座に「No」と伝えて、自分のイメージを伝えた。このやり方はまるで数年前に話題になったゴーストライター事件のあの人のようだな、と自分でも苦笑したけど僕は完成の絵が見えていたからそれで良かったのだと思う。
特に後半のプレイは圧巻だった。結局、当初からはキーも構成もメロディーも何も変えずにピアノを収める事に成功した。じっくり聴いてほしい曲です。
【北風と太陽】
これは1998年の終わり頃に書いた曲。当時、音楽人生の中で本気で賭けたバンドCandy Cherry Redを解散してズタボロになっていた僕を田中一郎氏(ARB,甲斐バンド)が拾ってくれて彼と結成したYossey&Chipsでライブ初披露した。
この時の秘蔵音源は僕のデスクの抽斗に眠っているが、あえて聴かずに記憶を頼りにリトライした。今、改めて仕上がりを聴いてみると『半世紀』での前半は穏やかに進行して後半で落とすみたいな手法は20年前からやっていたのか、と気付く。そして遠くで鳴らしているビートが気に入っている。
ちなみに助平な男は何故か妙に反応する。女性は黙っているのもこれまた面白い。
【氷麗】
つららと読む。これは『水晶体の空から』が人間にとって巨大なものからの視点に対して極小なものからのヴューイング。最新の書き下ろし。
80年代の後半にPARADEというバンドをやっていた時、ステージのMCで「まんが日本昔ばなしのエンディングテーマ好きなんだけど、誰かレコード持ってない?」って話したところ次のライブでどっさりEP盤をプレゼントしてもらった事がある。
「いいな、いいな、人間って良いな、あったかい布団で眠るんだろな」ってフレーズは子供心に衝撃を受けて以来、僕の全ての作品の根底にこれがある。
何だかんだ言ったって、奪い合い、命を食べ、あったかい屋根の下にいるのだ。人のお役に立ちたい?大いに結構。じゃあ動物は?植物は?鉱物は?雨粒の気持ちは?
なぜ植物は緑色をしているのかに気付くのはあと何回人類が滅亡した後だろうか。
そんな思いを皮肉を込めて軽快なロックンロールにしたかったのさ。